芳香族化合物
芳香族化合物とは、ベンゼン環(芳香環)をもつ有機化合物の総称です。第4類危険物のベンゼン・トルエン・キシレン、第5類のピクリン酸などが該当します。
ベンゼン環の構造と性質
- (1) ベンゼン C₆H₆ は炭素6個が正六角形に並んだ平面構造をもち、6個のπ電子が環全体に非局在化している。単結合と二重結合が交互にあるのではなく、すべての炭素間結合が等価である。OpenStax「Hydrocarbons」
- (2) π電子の非局在化によりベンゼン環は安定であり、不飽和結合をもちながら付加反応より置換反応を起こしやすい。これが芳香族化合物の最大の特徴である。OpenStax「Hydrocarbons」
- (3) 炭素の割合が高いため燃焼時にすすを多く出す(多量のばい煙を伴う)。第4類の芳香族化合物の火災はこの特徴を示す。職場のあんぜんサイト「ベンゼン SDS」
主な芳香族化合物
| 化合物 | 示性式 | 消防法上の分類 | 引火点 |
|---|---|---|---|
| ベンゼン | C₆H₆ | 第4類 第1石油類(非水溶性) | −11℃ |
| トルエン | C₆H₅CH₃ | 第4類 第1石油類(非水溶性) | 4℃ |
| キシレン | C₆H₄(CH₃)₂ | 第4類 第2石油類(非水溶性) | 27〜32℃(異性体による) |
| スチレン | C₆H₅CH=CH₂ | 第4類 第2石油類(非水溶性) | 31℃ |
| アニリン | C₆H₅NH₂ | 第4類 第3石油類(非水溶性) | 70℃ |
| ニトロベンゼン | C₆H₅NO₂ | 第4類 第3石油類(非水溶性) | 88℃ |
| クレオソート油 | ― | 第4類 第3石油類(非水溶性) | 74℃以上 |
| ピクリン酸 | C₆H₂(NO₂)₃OH | 第5類 ニトロ化合物 | ― |
- (4) ベンゼン(引火点−11℃)とトルエン(引火点4℃)はいずれも第4類第1石油類の非水溶性液体である。職場のあんぜんサイト「トルエン SDS」
- (5) キシレンにはオルト・メタ・パラの3つの位置異性体があり、いずれも第4類第2石油類である。職場のあんぜんサイト「キシレン SDS」
- (6) アニリン C₆H₅NH₂ は弱塩基性を示す芳香族アミンで、第4類第3石油類である。職場のあんぜんサイト「アニリン SDS」
- (7) ピクリン酸(2,4,6-トリニトロフェノール)は分子内にニトロ基をもち、第5類の自己反応性物質(ニトロ化合物)に分類される。芳香族化合物がすべて第4類とは限らない。e-Gov「消防法 別表第一」
- (8) ナフタレンはベンゼン環が2つ縮合した固体の芳香族化合物で、常温で昇華して蒸発燃焼をする。職場のあんぜんサイト「ナフタレン SDS」
置換基の位置
ベンゼン環に置換基が2つ付くとき、その位置関係で3つの異性体ができます。
| 位置 | 呼び方 | 記号 |
|---|---|---|
| 隣り合う(1,2位) | オルト | o- |
| 1つおき(1,3位) | メタ | m- |
| 向かい合う(1,4位) | パラ | p- |
- (9) ベンゼン環に置換基が2つ付く場合、隣り合う位置をオルト(o-)、1つおきをメタ(m-)、向かい合う位置をパラ(p-)という。OpenStax「Hydrocarbons」
危険物との関係
- (10) 芳香族炭化水素はいずれも水に溶けにくく、水より軽い(比重1未満)。流出すると水面に広がって燃え広がるため、注水による消火は不適切で、泡や粉末などで覆う。職場のあんぜんサイト「ベンゼン SDS」
- (11) 芳香族化合物の蒸気は空気より重く(ベンゼンの蒸気比重は約2.8)、低所に滞留する。換気は低い位置から行い、屋外の高所へ排出する。職場のあんぜんサイト「ベンゼン SDS」
- (12) ベンゼンは発がん性が指摘されており、蒸気の吸入を避ける必要がある。危険物としての火災危険とは別に、健康有害性にも注意する。職場のあんぜんサイト「ベンゼン SDS」
試験での頻出ポイント
- ベンゼン環は不飽和結合をもつのに置換反応を起こしやすい。これが脂肪族の不飽和化合物(付加反応)との違いです。
- ベンゼンの炭素間結合はすべて等価です。「単結合と二重結合が交互にある」は正確ではありません。
- 芳香族化合物が必ず第4類とは限りません。ピクリン酸は第5類です。
- 芳香族炭化水素は水に溶けにくく水より軽く、蒸気は空気より重い。この3点セットが消火・換気の判断につながります。
- 燃焼時にすすを多く出します。
出典・参考
- OpenStax Hydrocarbons
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト GHSモデルSDS
- e-Gov法令検索 消防法 別表第一